2021.3.8-10香川大学6回生 片山さん

この度は病院見学・実習を快く受け入れて下さりありがとうございました。今回の見学・実習のテーマは「臨床で働き出す前に一素人の視点で離島の医療がどのように支えられているのか自分の肌で感じること 」でした。奄美大島で働かれている色々な医療スタッフの方々に出会い、お話を直接伺う中で、自分の中で新たな発見が一つでもあれば と思って参加させて頂きましたが、結論から申し上げますと、今回のタイミングで 奄美大島に足を運んで正解でした。

 

1 日目

2 日目

3 日目

午前

名瀬徳洲会病院病棟

喜界島徳洲会病院外来

名瀬徳洲会病院外来

午後

喜界島徳洲会病院

名瀬徳洲会病院救急外来

訪問診療&内視鏡見学

行程は上の表の通りです。実習期間中は多くの先生方からご指導頂き、多くの発見がありましたが、今回は特に印象的であった 3日目の内容を 中心に 述べさせて頂きます。

無駄のようで無駄でないリズムのある問診術

一つ目は平島先生の外来での出来事です。 めまいを主訴に来院された若い男性です。最近 朝起き上がるときに症状が増悪したことが何度かあったということでした。平島先生の医療面接は柔らかく、丁寧でありつつ時に大胆という印象を受けました。オープンクエッションから始まり、クローズドクエッションへ移行するお手本のような 面接 でした。患者さんもこれまでこんなに丁寧に聞かれた ことがないというような反応で、しかし 淡々と現在抱いている不安なことを答えるような形で話が進んでいきま した 。 そんな中 、平島先生は「お仕事は何されてるんですか」と尋ねました。私はなるほどこのタイミングや流れで職業を聞くのかと、 OSCE で習った知識を再確認していました。しかし、私が着目していた方向性とは予期しない展開に話が 進んで いきます。「体育の教員です」。先生は何かを思ったようで、「逆上がりはよくされますか」と投げかけました。「いえ、そんなに…」。私は 正直 場を和ませる だけの 質問かと思い、愛想笑いをしていましたが、先生の着目点はさらに先にありました。「最近新たに始めたことや思い当たることはないですか」。この質問から霧が晴れるように対話のスピードが加速していきました。「筋膜リリースを始めました」 。「(筋膜リースに は)頭をぐら と動かすような行程はありますか」。「はい」。……。質問と回答にリズムが生まれ、 先生は 「おそらくと思う病気が浮かんでいるので、少し検査をしてよいですか」と言って、検査前の説明を丁寧に行い、同意を得た上で頭位 を変換して眼振が誘発されるか

の検査を行いました。私は感動しました。医療面接と診察 及び 検査 はこのようにスムーズ かつ 丁寧に行われるべきなのだと。もちろん先生は後から「あんなに時間をかけられることはあまりないけど、特に初診の患者さんにはできるだけ時間をかけるようにしいている」と教えて下さいました。「途中まではなんとなくの鑑別しかできてなかったけど、一つのキーワードからピンと来て、自然と質問が口をついて出てきて、あそこからスピード感が増したよね。」と始めから病気を見抜いていたわけではなく、あくまでも医療面接の中から自分 なりの 答えを導き出す作業をして答えにたどり着いたのだと 説明して下さいました 。そして、 最後に平島先生から初期研修に向けて次の言葉を かけて 下さいました 。

患者さんが起きている時間は とにかく ベッドサイドで時間を使った方がいいよ

この言葉の意味は、上のような医療面接ができるようになるためには 途方もなく 成果の 出ない 時間をどれだけ ベッドサイドで患者さんに費やしてきたか、ということでした。 私は初期研修が始まるこのタイミングで 平島先生 の外来を見学することができてよかったと思いました。

どんな僻地でも妥協しない専門医としてのプライド

二つ目は 井上先生の内視鏡 治療 の時間です。井上先生は大阪の岸和田徳洲会病院の先生です。名瀬徳洲会病院で初期研修をされた後に都市部の医療に触れたという経歴をお持ちだそうで、「奄美大島の医療に慣れていたから、都市部の何でもできる医療が新鮮だった」と普通の先生とは逆のカルチャーショックを受けたとおっしゃっていました。そんな井上先生は今離島医療に支えられている奄美大島の名瀬に内視鏡の技術を運ぶという先生にしかできないことに取り組まれているとのことでした。はじめに話を聞いただけではこの取り組みのすごさはあまり分か り ませんでしたが、 先生と半日ご一緒するだけでそのすごさと大変さが少しずつ分かっ てきました。井上先生から感銘を受けたことは、それぞれの言葉の重みや行動力だけではありません。井上先生は岸 和田徳洲会の消化器内科をまとめ上げる だけでなく、病院の副院長だそうです。そんなすごい経験や実績のある先生ご自身が離島に足を運び、ここ名瀬だけでなく全国、発展途上国に内視鏡の技術を運びたいという強い信念の下動かれてい らっしゃる 。それだけでも尊敬できるのですが、特筆すべきはその謙虚さと物腰柔らかく部下を包み込んでくれる安心感だと思いました。実際にその日指導を受けていた 6 年目の先生も 井上先生のそのような姿勢に信頼を抱き、安心して業務にあたっておられるようでした。井上先生からは何か 自分 の強みを見つけ、それを一生懸命磨くことの大切さを学びました。 その上で、 そこにとどまらず、さらなる自分の使命を見つけ、自分の経験や技術を次に伝える姿勢 を後輩に見せ続けることの素晴らしさを教えて頂いたように思います。そ

んな 井上先生からは次の言葉を頂きました。

身につけたいと思えた技術を教えてもらえるときは 、その一回で絶対に自分のものにしてやるぞという気概を持って臨むとよい

井上先生は離島での当直中に自分がどうやってもバイタルサ インを安定させることができなかった患者さんの付き添いで本土に搬送したとき、 先生の対応を優しく労いつつもいとも簡単に 内視鏡止血術で患者さんの問題を解決した先生に出会い、内視鏡という技術に魅了されたと 話して下さいました 。しかしながら 、内視鏡の習得に取り組んだ当時は今ほど丁寧に教えてもらえるような環境ではなかったと言います。私はこの 今は昔より “優しい”と言われる環境のメリットを生かしつつ も 、それでもあえて学べるチャンスは 目の前の この一度きりだ と思 って 挑むべきだ と 教えてもらった気がしました 。 初期研修の優しい環境 に甘んじず、ある程度 自分で プレッシャーを かけながら自身が後悔のない研修にしたいと 、自戒の念を込めてここに誓いたいと思います 。

以上のように、本病院見学・実習では、お二人の先生のみならず、たくさんの方々からここ で 述べきれないほどの学びを得ることができました。 今回の学びや心に響いた言葉を胸に新天地で一から勉強していきたいと思います。この度関わってくださったすべての方々に感謝申し上げます。