2018.8.20-24.群馬大学5回生山田さん

参加の経緯

私の大学では公衆衛生学の臨床実習の一環として、自らテーマを決めてそれに合う実習先を選び実習をさせて頂くという地域保健実習というものがあります。とあるセミナーで平島先生にお会いした際、その患者さんの診療に対する姿勢はもとより、地域の医療をさらに良くしようと情熱的に取り組まれているお姿に感銘を受けて、ぜひ間近でどのように地域医療に取り組まれているか知りたいと思い、実習をお願いさせて頂きました。

実習内容

当初の予定では月曜日に平島先生と喜界島に入り、当直実習をさせて頂くことになっていましたが、火曜日に台風が奄美大島を直撃するという事態に。そこで平島先生は奄美に残られ、私のみ喜界島に向かうことになりました。喜界島での実習は1日の予定でしたが、当然飛行機は飛ばず2日間病院に泊まらせて頂きました。その後は天候も回復し、水曜日からは奄美大島で実習させて頂くことになり、訪問診療見学、当直実習、外来見学、病棟回診などをさせて頂きました。

月曜日:喜界徳洲会病院にて当直実習

火曜日:外来見学、病棟回診など

水曜日:名瀬徳洲会病院に移動、訪問診療2軒同行、グラム染色勉強会、当直実習

木曜日:眼底のフィジカルレクチャー、産婦人科外来見学など

金曜日:内科外来見学、CTカンファレンス、手術見学

予期せぬ台風に遭遇・・・

喜界島徳洲会病院
非常用電源で豆電球だけ灯る医局

今回は公衆衛生の一環として離島医療を学ぶという視点で実習をさせて頂きましたが、偶然にも台風に遭遇するというラッキー(?)に恵まれ、普段見えてこない離島医療の問題点を実感することができました。

火曜日の喜界徳洲会病院の外来では、目を異物で傷つけた患者さんが来られ、早期の眼科医受診が必要と判断されましたが、病院にはおられず島外に出ないといけないことに。しかし外は暴風でもちろん飛行機は飛ばない状況…先生方は抗菌薬投与などの対処療法のみされて、患者さんにはなるべく早い便で本土に向かうように指導されていました。病院は基本的に応援の先生方で成り立っている状況で、専門の先生にすぐ見て頂けないこともしばしばあるようで、今回のように飛行機の運行に受診が左右されてしまうことが、離島医療ならではと感じました。また、台風襲来にともない島一帯が夕方から停電になりました。病院は非常用の自家発電装置があるため、電灯や人工呼吸器などの必要最小限の電力は確保できますが、検査装置は何もかも止められフィジカルのみが頼りな状況に。なるほど、平島先生のフィジカルはこういう時に活きるのか!とも思いましたが、他の検査が何もできない状況だとさすがに確定診断も難しいですし、もし診断がついたとしても処置ができないかもしれないとすると、離島医療の怖さを改めて感じました。幸い今回は院内急変も急患搬送もなく無事に過ぎたので安堵しました。

島に唯一の病院で見たもの・感じたもの

喜界島徳洲会病院
暴風対策に病院前に置かれたコンテナ

しかし、離島医療は大変な点ばかりでなく、医療者と患者さんの関係がとても近いといういい面も知りました。喜界島は島民が7千人あまりの小さな島であるため地元の人々の結びつきが強く、医療者も知り合いが多いとのこと。そのためか、患者さんがどうすれば良くなるか、この人にとって何が最良かということを医療者皆が考えていて、医師に対しても色々提案されることも多いそうです。とても暖かい、助け合って生きているという感じが伝わり、やさしい時間が流れているように感じました。病室内でも隣同士の患者さんのご家族が初対面でも気さくに話しかけられていたり、笑いの絶えない病室だったのが印象的でした。喜界徳洲会病院では後期研修医の古賀先生に指導頂きましたが、先生はどの患者さんにも腰を落として目線を下げて、手を握ってやさしく話しかけられていて、担当されているどの患者さんからも信頼されていらっしゃいました。そんな患者さんの一人からこのようなことを言われました。「ここの先生はね、みんなとてもいい先生なの。でも慣れたころにみんな入れ替わりで出て行ってしまうの。そうなると患者はなかなか信用できないのよね。腕はそこそこでもいいから、ずっと長く島にいてくれる先生の方がやっぱり信用できるのよ」離島医療はなり手が足りず、スタッフの多くを本土からのローテンションに依存しているところがあるため、このような問題点があるということも見えてきました。

教育と実践のある離島医療

奄美では名瀬徳洲会病院で、平島先生、研修医の先生方、産婦人科の小田切先生、外科の島袋先生、麻酔科の高橋先生など多くの先生方に身体診察や治療についてなど様々なことを教えて頂きました。平島先生のフィジカルのレクチャーでは苦手な眼底所見の取り方をわかりやすく教えて頂き、少し扱いに慣れたような気がしました。グラム染色の勉強会でも先生の熱い感じが垣間見られて、こちらのやる気もヒートアップしました(笑)。また研修医の先生方はとても優秀な先生方ばかりで、数年後にこのような医師になりたいと思う先生方に出会えたことも今回の実習の収穫の一つです。そして、病院実習に来られた多くの方が体験記に書かれているように、産婦人科の小田切先生の熱い人柄には圧倒されました。患者さんに対する診療が丁寧なのはもとより、スタッフに対する教育や地域の子ども達に対する性教育なども伝え方を工夫されたりして熱心に指導されているとのことで、私のような飛び込みで来た学生にもエコーを扱わせて頂いたり、産婦人科に関する知識を確認して下さったりと指導して頂き大変勉強になりました。外来終了後に先生から島の医療に対する取り組みについてのお話がありましたが、それはそれは感動的なものでした。ぜひ奄美に来て先生から直接教えてもらって下さい。

実習で見えた現状と課題

全体を通しての感想としては、島でも本土と全く変わらない医療が展開されているということを感じました。当然といえば当然なのかもしれませんが、CTなどの検査機器を充実させるという病院側の取り組み、そして何より先生方をはじめスタッフの皆様の島の医療を良くしようとされる取り組みが、この高い医療水準を島で維持することにつながっているのだと感じました。本土と変わらないどころかそれ以上のものがここにはあると思います。ただ、地理的な面で緊急時の搬送が大変である点や、地域の病院間の連携強化、スタッフがローテーションで対応されているなどの問題点もあり、現状の課題などが見えました。

奄美の自然に感動!

奄美大島大浜海浜公園
ぎりぎり間に合った大浜海浜公園の夕日

台風が直撃したこともあり、風光明媚な奄美大島や喜界島の観光を堪能できなかったことは心残りでしたが、それでも行きの飛行機からみた海の青さや、実習終了後に病院の車をお借りして急いで向かって間に合った大浜海岸から見た夕日の鮮やかさは目に焼き付いています。またご飯もおいしくて、鶏飯や島とうふは絶品でした。また最終日は研修医の先生方に焼き肉にも連れて行っていただき、島の名産である黒糖焼酎も堪能しました。

今回の実習に際し、台風直撃というイレギュラーの事態にも関わらず、色々と実習できるように手配頂きました平島先生、事務の方々にまず厚くお礼申しあげます。そして実際ご指導頂きました名瀬徳洲会病院 松浦院長先生、金子先生、島袋先生、小田切先生、高橋先生、平島先生、研修医の先生方、喜界徳洲会病院 浦元院長先生、板垣先生、安部先生、古賀先生、研修医の先生方に厚くお礼申し上げます。今回の経験をもとに、地域医療のあるべき姿についてより自分の考えを深め、ゆくゆく臨床を行う地での医療の発展に活かしていきたいと思っております。誠にありがとうございました。