2020.3.9-13.山形大学5回生奥村さん

全ての出会いは運命ではなく偶然である

総合診療ってどんな診療科なのだろう…そんな思いで何気なく参加した勉強会の中でフィジカルクラブに出会いました。この時のテーマは虫垂炎を疑った際の身体診察。終始、平島先生のエネルギーに圧倒されながらも、フィジカルで虫垂の局在が推定できることを教えて頂き、フィジカルの威力を知りました。同時に地域医療こそが総合診療の舞台であることも知りました。すぐに現場を見てみたいという思いにかられ、実習を申し込みました。

 ただ、実習予定日が近づくと予想外の新型コロナウイルスの問題が出てきました。大学の実習も延期となっている中、本当に実習を受け入れて頂けるだろうか…奄美大島に辿り着くまで不安でしたが、予定通りに実習させていただきました。

 今、振り返るとフィジカルクラブとの出会いも、予想外の感染症流行の中での実習も、全ては偶然の積み重ねでした。

医師としての寿命

奄美に来る前、「君は医者としては短命だ。40歳を過ぎたら医者としての能力は落ちていくばかりだ。」と言われたことがあります。私は他の学生より遅れて医学部に入学したので、物理的に時間が短いのは確かです。しかし、まだ学生で医師にもなれていないのに医者としての余命宣告をされ、ずっと違和感を抱えていました。このエピソードを平島先生にぶつけたところ「医者としての死や能力ってなんだろうね。」とおっしゃいました。この瞬間、ハッとさせられました。一気に視野が広がったように感じました。

 この時も今もまだ、医者の死や能力とは何か、私自身ではなかなか言語化できません。ですが実習後半にお世話になった産婦人科の小田切先生から、ヒントとなるようなお話を偶然にも聞くこととなります。

教育は救い、そして奇跡

今回の実習では6人の初期研修医・3人の後期研修医の先生方にもお世話になりました。

研修医の先生方は初療から入院、退院まで一貫して患者さんを担当し、基本的に検査・治療の判断をご自身でされていました。勿論、上級医の先生方に相談する場面もありましたが、意見を押し付けられるようなことはありません。どの研修医の先生方も、自律的に、責任感と熱すぎる情熱を持って診療されていました。

 そういった環境の中でのフィジカルクラブを始めとするレクチャーは、“救い”だと教えていただきました。患者さんと真摯に向き合い、何とか“手あて”したい!との思いで診療されているからこそ、“教育は救い”となるとわかりました。

 そしてその教育は、毎回違うものでした。同じ身体診察のレクチャーでも、患者さんが違えば所見が違う、参加するメンバーも違うから議論も違ってくる、、、だから現場での学びは毎回が奇跡なのだと感じました。

この体験記の小見出しの一部は、平島先生のお言葉を拝借しています。進路に悩み、山形で感じた疑問と違和感を抱えながら、約2000 km離れた奄美群島まで伺いました。そこには、“救いの言葉”もありました。この実習で経験させて頂いたことが、今後の糧となることは間違いありません。大変ありがとうございました。