医者は現場でどう考えるか
ハーバード大学医学部教授ジェームズ・グループマン著
医療ミスではなく診断ミス(診断エラー)はいかにして起こるのかという問題に30年医療に従事した医師が感じることを実体験を元に書かれている。
“私はあなたの物語を聞きたい、あなた自身の言葉で”
診断がなかなかつかずいろんな医療機関を受診する患者は時に経験するが、その場合医師もさらには患者も構えてしまうものである。患者は、また粗末に扱われるのではないかと不安を抱き、医師はまたやっかいな患者が来たという負の感情が生まれてしまう。
そこで必要なのは、紹介状や過去の検査結果ではなく、「私はあなたの言葉で聞きたい」という姿勢なのだろう。
“最高の名医を含め、すべての医師は誤診をし、間違った治療法を選ぶことがある。これは「医療ミス」の問題ではない。”
すべての医師は誤診をする。という言葉は私の胸につき刺さった。世間ではよく「医療ミス」が原因で患者の命が脅かされたり、落としてしまうと全国ニュースで問題視される。当然のことである。しかし、日常の医療現場で「誤診=診断ミス」でどれだけの人たちが命を落としているのだろうかと思うとぞっとする。もし、診断があと1日早くつき、治療が開始されていれば命を落とすことがなかったかもしれないという経験はおそらくどの医師にもあるが、このような事が表に出ることはほとんどない。「誤診」はすべての医師が経験するので許され、「医療ミス」は徹底的に非難される現状とそれで本当にいいのだろうかというもやもやとした感情が湧いた。世間も「誤診」についてもう少し目を向け、医療者を非難するのを目的にするのではなく、いかにして自分の命、家族の命を守るべきか考えてもいいのではないか。
“シャーロック・ホームズは模範的な探偵だが、人間の生物学的現象は、すべての手掛かりがきれいに揃う盗難や殺人事件とは違う。医学には、容疑者に対する行動が見当違いになるような不確実性が存在する。”
最近ではよく総合診療医は探偵に例えられ、ドクターG(general)と呼ばれたりする。しかし、人の身体の中で起こる現象は、予測もつかないことが起こることがある。安定していると思っていたら、突然急変し命を落とすことがある。我々医師はすべての急変に備えることは不可能である様々な情報から病気・病態を探りつつアクションを起こさなければならない。必ず成功するシャーロック・ホームズとは違い、落とし穴に落ちることも心に刻み這い上がる強さが必要なのだと思う。
"自分で考えることを放棄し、判定システムやアルゴリズムに、自分に代わって考えてもらおうとする若い医師たちが実に多くなった”
確かに重症度判定や診断に関するガイドラインに照らし、自信満々でプレゼンテーションをする若手医師は時々目にする。
この「自信満々」は非常に危険と私は思う。
その根拠による診断や重症度判定の結果をもとに治療介入を行い、仮にその患者が亡くなってしまったとしよう。その時、その若手医師は患者の死を「ガイドライン通りやったがうまくいかなかったのでしょうがない」と考えてしまう。
この考え方は大きく間違っている。
患者の命はガイドラインが握っているのではなく、主治医である医師の判断に委ねられているのである。ガイドラインや判定システムも誤診の原因となると考えるべきである。患者の命をガイドラインのみに委ねる医療のやり方は非常に危険であると自分に命じつつ、うまくガイドラインと付き合うべきと思われる。
患者・家族にそこまで話し合って協力して行っていくのが真の医療だと思う。